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“ものづくり”の知恵

K.H

1.日本の“ものづくり”

 日本における生産技術や製造技術等を幅広く総称して、“ものづくり”という古式豊かな言葉が使われます。町工場が姿を消す中、鉄をたたく、削る、溶接するといった “ものづくり”を見る機会は少なくなりました。一方、CADや3Dプリンタの発達により、デジタル加工機を使えば、どこでも同じものができてしまう便利な時代になってきました。そうした中、他社との差別化を図るためには、デジタル加工機やソフトの性能を限界まで引き出し、独自の加工ノウハウを発揮していく必要があります。日本の“ものづくり”の強さは、簡単にはまねのできない加工ノウハウを持ったオンリーワン企業が各地にあることではないでしょうか。

2.加工の限界に挑戦する技能者集団

 写真1は、(株)森精機製作所が主催する切削加工ドリームコンテストの第6回(2009)金型・造形部門で金賞に輝いた作品「ヘルメット」です。これを製作したのが(株)大槇精機(だいしんせいき)の大町亮介社長が率いる技能者集団です。作品はオフロード用の実物大ヘルメットを題材に、カッコいい車のモチーフを取り入れたとのことです。120㎏のアルミ塊から3.6㎏の作品を5軸加工機で削り出した大作です。アルミニウムの金属が放つ美しい光沢が重量感を与えます。金属であるにもかかわらず内側はやわらかい質感を感じさせるように削っているため思わずかぶってみたい衝動にかられます。

アルミ削り出し「ヘルメット」
チタン削り出し「王冠」
写真1 アルミ削り出し「ヘルメット」
写真2 チタン削り出し「王冠」

 写真2は、大槇精機の技能集団が2013欧州国際機械見本市(EMO)への出展オファーに応えて製作した「王冠」です。チタンの塊から削り出した「王冠」のフレームは細い上に薄く、アルミや鋼よりもはるかに硬い金属です。非常に削りにくいチタンですが、どこをどう押さえて加工したかがまったくわかりません。切削のつなぎ目もわからない美しい仕上がりです。まさに、アナログ的なノウハウとこだわりを持った、まねのできない技術です。(株)大槇精機の次なる挑戦が楽しみです。

3.最先端の科学技術を支える精密加工

 次に紹介するのは房総の田園地帯にあるオンリーワン企業、(株)森川製作所です。得意とするのはヒッグス粒子で有名になった加速器のセルと呼ばれる重要な部品を加工する技術です。このセルの中を陽子が通過します。セルの材料は無酸素銅ですが、熱伝導率が高いため0.1ミクロンの精度で加工することは容易ではありません。加工する際の熱や振動には人一倍神経を使います。台風や地震は大敵です。セルのほか、プロジェクターレンズの金型や他ではできない精密加工を得意としています。「どこでもできる量産品やデジタル的な仕事はやらない、他ではできない加工を手掛けることで、仕事を取りにいくのではなく、仕事をお願いされる状況にある」とのこと。難しければ難しいほど果敢にチャレンジしている社長さんのお話からは、むしろ楽しんでいる様子が伝わってきます。同じ高精度な工作機械でも、さらに一工夫、二工夫することで外国ではまねのできない加工をやり遂げる技術、これこそが日本のお家芸だと思います。

4.“ものづくり”の発展

 ところで、人類は、何万年も前から自然界に存在するさまざまな材料を巧みに使い、道具や生活用品をつくり続けてきました。文字がなかった時代においても“ものづくり”の技は脈々と技能伝承されていったことがわかります。材料の入手から吟味、加工方法等、その時代のこだわりには目を見張るものがあります。機能性だけでなく“ものづくり”に芸術的な装飾と美意識を追い求めてきた祖先に畏敬の念を感じざるをえません。 

 中でも新潟県十日町で出土した縄文時代の火焔土器や青森県で出土した土偶には縄文人の荒々しくも力強い芸術性を感じることができます。旧石器時代から縄文時代にかけて1万年以上にわたり作り続けてきた石器類も、なかなかまねのできない石の芸術品です。石器に使われた黒曜石は、切れ味が抜群で加工性も良いのですが、産地が限られるため非常に貴重だったと思われます。そのため、讃岐石をはじめ手に入りやすい石を使った石器の方が多く見つかります。それにしても、古代人の交易ルートは、なんと広範囲だったのでしょうか。

 写真3は、子供のころ田舎で偶然に見つけた石器や土偶です。今でも、堆積物がない地域の地表で見つけることができるかもしれません。石器や土器に限らず、興味がなければ見えないものも、関心を持てば見えてきます。数千年の時を超えて、“ものづくり”は驚異的に発展してきました。しかし、石油をはじめ様々な鉱物資源や食料資源の確保は厳しさを増しています。これまで経験したことがない速さで変化する地球環境の中で、人類が生き残るためには、無限の知恵を活用し、限りある資源を分かち合っていかなければなりません。

石斧
土偶
皮剥ぎ、鏃(やじり)
写真3 人類初期の“ものづくり”

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